パームトップパソコンと言えば、誰でも思い浮かべるマシンがHP 100LXもしくは200LXであろう。100LXが発売されたのは1993年の5月。当時小型パソコンといえば、この100LXか、もしくはIBMのThink Pad 220が代表的な製品であった。ところが、いざ携帯して使用するとなるとThink Pad 220では図体が大きすぎるし、100LXではキーボードが小さくタッチタイプが難しい。そのため、両者の中間程度の大きさを持つマシンの登場が待たれていたのである。

 その頃、香港製や台湾製のパームトップ機には、この要求を満たす製品がいくつか見受けられた。日本では無名に近いこれらのマシンは、当然日本語環境も整っていなかったが、HP 100LX日本語化のムーブメントに刺激されたマニアたちは、この素性の知れないマシン上での日本語処理について、熱心に研究を開始したのであった。その結実とも言えるものが、今は無きPC WAVE誌1994年12月号に掲載された名特集、「謎のパームトップ機日本語化計画」であった。

 ところで、なぜわざわざ「謎の」という表現を付けるのであろうか?その理由は簡単で、これらのマシンには仕様的にいろいろと謎の部分が多かったからである。香港や台湾の、いわゆるIBM PC互換機メーカーが多数存在する国で、名も知られていないベンダーによって開発されたこれらのマシンは、同一の製品であるにもかかわらず、ロットによって仕様や動作が微妙に異なったり、同じ仕様の製品がさまざまなメーカーからいろいろな名前で発売されたりで、ある面「なんでもアリ」の世界を形成していた。情報量の少ない日本では、これらのマシンを前にして、頭を悩ませるユーザーが後を絶たなかった。それゆえ、日本の廃人は、これらのマシンを「謎のパームトップ」と呼んで、その仕様の究明と日本語化を嬉々として行っていたのであった。

 当初このページは、今まで発売されたパームトップ機を、有名メーカー製のものから謎パ~機と称されているモノに至るまで広く紹介することを目的に企画された。しかし、残念ながら作業は遅々として進まず、暫定的なコンテンツの掲載に留まっていた。このたび全体構成等を抜本的に見直し、これまで執筆した雑誌掲載記事等を中心とした再構築を実施した。本コーナーが、もはや歴史の一部となりつつある謎パ~機について、今一度、ふり返る一助となれば幸いである。


 ───「試行錯誤の末に、ショボくれたモノクロCGAの画面上に日本語を表示することに喜びを覚えるようになれば、アナタも立派な廃人の仲間入りだ。常人には理解不能の価値観で、オールドPDAの収集という奈落の底に落ちてゆくのも、それもまたひとつの人生と言えるのではないだろうか?」─── 波多利朗 ───